日本国内では唯一と言っても過言ではない、対位法のテキストが復刻しています。
それが新版「池内友次郎著 『二声対位法』『三声ー八声対位法』『学習フーガ』」です。
今回はこれら新版「池内友次郎著 『二声対位法』『三声ー八声対位法』『学習フーガ』」について、その内容を斜め読みした中で気付いたことなどをお伝えしていきたいと思います。
40年前に購入した旧版が新装で復活
旧版「池内友次郎著 『二声対位法』『三声ー八声対位法』『学習フーガ』」については上の画像キャプションでも書きましたが、このうち『二声対位法』以外の2冊はこれまで長らく絶版になっていました。
このことは別の記事でお伝えしています。
それがここ最近、この池内友次郎『対位法』3冊シリーズをまとめて新版に内容を改良して出版されています。
私が旧版を三冊買ったのはもうかれこれ40年ほども大ムカシ❗️
だから、「和声教室オンザウェブ」で長らく対位法のオンラインレッスンを運営してきた自分としては、本当に驚きもし、かつまた喜びでもありました。
勢い余ってこの3冊セットを2部買い求めています。
新版は旧版よりも優れている?
さてそういうわけで、念願だった「池内友次郎著『三声ー八声対位法』『学習フーガ』」が今回、発刊中だった『旧 二声対位法』とともに新版となって再登場してくれました。
そこで早速ながら、新版が旧版に対してどのように変化しているのか?
変わった点は?
そしてより優れた点は?
それらをちょっと取り上げてみましょう。
先に結論をいいますが、新版と銘打っているわけでもあるので、旧版を改変し、その結果として改良していると思えるポイントはいろいろあります。
それがちょっと見た限りでも確かに多く、やはり目立っています。
なお私自身、この新版についてはまだほんの斜め読み程度でしか内容を確認していませんので、それはあらかじめご承知願います。
【1】大胆な変更?「ハ音記号」の消滅
新版の中の改変点で一番大きいのがこれだと思います。
新版では、旧版にあったハ音記号の譜面表記がすべて改変され、ト音記号に変えられています。
つまり、四つの声部におけるソプラノ、アルト、テノールにあてられていた各ハ音記号の譜表3種類は、すべてト音記号に直されています。
このため旧版よりもかなり譜例が読みやすくなった、と少なくとも個人的に確信しています。
ハ音の譜表が非常に読みにくい点については、私のオンライン音楽講座サイト「和声教室オンザウェブ」、その対位法コースのページでも長々と解説している通りですが、なまじこのハ音譜表を対位法の学習課程に持ち込んでしまうと、ただでさえ本来的に網の目のような禁則規則を乗り越えていく対位法学習の本質と相まって、学習者をより不必要に混乱させて意気消沈させかねないはずです。
だから今回新版によってこのハ音譜表が一掃された形になった、というのは私の主張が遠からず的を射たのではないかな、と安堵している次第です。
【2】旧版の「誤り」を修正ではなく「指摘」
上のとおり、私はまだこの新版を斜め読み以下でしか読んでいないので、全体的に感想をいうことは出来ませんが、旧版の誤記、つまり譜面上で記載を誤っている箇所が「指摘」されているのを確認しています。
具体的には『三声~八声対位法』の実施例です。
従来の旧版でも確認していましたからなじみがありますが、今回その誤った箇所が指摘されているのはちょっとうれしくなります。
注意すべきはあくまでも「指摘」に留められているということで、譜面上の誤った音符の表記を修正していたりはありません。
あくまでも旧版あるいは筆者である故・池内友次郎氏の業績をオマージュしていくという姿勢の表れかと思っています。
【3】文書表現を追加し、旧版の文章表記を変更
これも随所で見られます。
旧版ではなかった言い回しが時折付加される形で現れ、また旧版の文章表現も変えている箇所があるようです。
その都度「オヤ?」でしたが、旧版よりもより読みやすく理解しやすくする、そういう意図をもっての変化だろうと思います。
このうち個人的には旧版で見られなかった「ぎこちない」という言い回しが印象に残っています。
読み慣れていないとピンとこないような表現ですが、人によったら読みやすくなったという感想が有るかも知れません。
【4】理解が進むよう見易くなったレイアウト
枠線を新たに導入しています。これによって大項目と小項目の区分がついているので、テキストの表現をより見やすくなったといえるでしょう。
直しきっていない箇所もある?和声テキスト『和音構成音』シリーズトの兼ね合いは?
このようなわけで、旧版と比較してより学習者フレンドリーになったと思われる池内友次郎著「二声対位法」「三声ー八声対位法」「学習フーガ」ですが、ちょっと見で見つけてみた点として、旧版で起きている譜面上の誤表記もないわけではなさそうです。
「三声ー八声対位法」のとある譜例で今のところ一点見つかっています。
ただ、私の誤解かもしれないのでどことは言いませんが、探せばそういう箇所も有るかも知れません、とだけ言い置いておきます。
それからあと、同じく故・池内友次郎氏の手になる「和音構成音」シリーズがかつて出版されていましたが、「対位法」シリーズの内の2冊同様絶版になったままです。
「和音構成音」シリーズは新版とか再版とかはされないのか?という点も気になるところですし、出来れば再度出版して欲しいテキストです。
それというのも、一つには「対位法」テキストシリーズで表示されている和音記号は、「和音構成音」シリーズにも見られますし、実のところその和音記号の表記方法はこちらの「和音構成音」に細かく説明があるからです。
この和音表記方法は、私が「音友和声」と呼んで、最も広く普及していると考えられる音友社『和声 理論と実習』4冊シリーズのテキストとかなり異なっていて、このため初見で「対位法」テキストシリーズに飛び込むと、その和音記号の表記方法に戸惑う危険があります。ある程度まで和声学習が進んだ人なら、その中で学んだ知識を元にして、推測的にその表記方法を理解できるかもしれませんが、それでも誤解を抱いたまま学習を進めていくことになるかもしれません。
新版は対位法の学習を楽にしてくれるかも
というわけで、今回は新版として出版再開となった池内友次郎著「対位法」テキストシリーズの話という、非常に地味な話題になりました。
まとめですが、新版「対位法」テキストシリーズは上に語ってみた内容から推し量れるとおり、メリットの方がはるかに多いと得心がいくのではないでしょうか。
さらに言うと対位法の学習というのは上にもあるとおり、禁則規則が網の目のように複雑に、そして多岐にわたって大量にからんでくるので、学習を進めるには相応の忍耐も必要になると思います。
和声学の学習も確かにそういう禁則規則は出てきますし、それらを完ぺきにマスターするとなるとやはり相当な修練も必要だと思いますが、対位法の学習はこれに加えて、とりわけ初段階だと二声を徹底的に学ばなくてはなりません。
この二声対位法というのは文字通り二つの音の連続を模索していくわけですから、私たちが日頃聞き慣れている曲の響きや豊穣な曲想からは全然かけ離れた、ほとんど虚無感を抱くしかないような段階が続くことになります。
極端なハナシ、そんな勉強を続けていても面白いはずないだろう!?というわけです。
ただそう考えると、そういうイバラの道のような対位法の学習を少しでも楽にして楽しめるようにしているのがこの新版「二声対位法」「三声ー八声対位法」および「学習フーガ」なのかもしれません。