洋紀Hiromichiの部屋

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和音記号はどっちがお好み?

和音記号はどっちがお好み?

和声学を学習する方は、大方の場合音楽之友社「和声 理論と実習」というテキストを利用すると思います。

この全3巻+別巻の四冊、あまりにも有名です。
そして、和音を表す場合、ご存じの通りこのテキストは独特の和音記号を利用しています。

下のようなものになりますね。
一応、私がインスタントで作ってみたオリジナル、和声のフレーズです。
和音記号1
⇒(譜面や写真など、当ブログのコンテンツについてはこちらを参照)
ただ、この和音記号は日本独特のものとも言えます。

一方、他の諸外国では下のように、単なる数字で和音を表すことが昔から行われてきました。
和音記号数字
他にも表記の方法はありますが、おおざっぱに、ひとまず言ってしまえばそうなると思います。
(なお、この数字表記方法は『フランス式数字』と言われるもの)

さて、今回のテーマは上と下、どちらが良いのか悪いのか?というのを考えてみたいと思います。

もちろん両者はそれぞれ長所も短所もあると思います。
だから、これらを一緒くたにして優劣を競わせても意味がなさそうかもしれません。
というか、ムチャかもですWWW

けれども、ちょっとした雑談としては面白そうですので、私の独断としてあれこれお伝えしてみたいです。

音友「和声」は『和音の情報を全部表すぞ!』タイプ

まず音楽之友社「和声 理論と実習」
このテキストはよく『島岡和声』とか『芸大和声』などと呼ばれていますが、それだけ日本の音楽学習者にとってはポピュラーです。
音友和声(芸大和声)
この和声学テキストの和音表記はご覧の通り、全ての和音の音度を英数字(Ⅰ、Ⅱなど)で表し、また転回形や携帯をその傍らに付記することで、その機能をほぼ完ぺきに網羅して表せる、という非常に優れた点があります。

転調なら転調箇所の和音表記を( )で囲み、そしてそこにやはり転調先の調と主調との関係を英数字で表します(『音友和声』Ⅲ巻)。
ソナタやフーガなどの楽曲分析ではよく転調を追跡するケースが出てきますが、そのためにもこうした和音表記に基づく分析は不可欠になります。

つまり、この『音友和声』は少なくとも調性音楽における和声分析においては、『和音の情報を全部表すぞ!』という意気込みを感じさせるかのような完成ぶりです。

しかもまたそこには各和音の機能、調関係をも含めてつぶさに分析していけるキャパシティを盛り込んでいる、といえるのではないでしょうか。

書くのがめんどくさ過ぎ!?

と、長所をみてみましたが、もちろん逆に欠点もあります。

それは何と言っても、各和音の情報を徹底的に書き出ししているので、すごく複雑化する場合が多くなります。
このため、いざ自分で楽曲を分析したり、和音表記を覚えていく際には、たまらなくめんどうくさい!
これにつきるのではないでしょうか。

上の譜例の、フランス式数字法は、他の数字法と比較して、一番簡素に表記できる方法になりますが、それとこの『音友和声』を比較すれば歴然。
音友
誰が見ても明らかです。

ただ、くどいようですが昨今の日本では多くの方々がこの『音友和声』を利用していると思いますので、その煩瑣過ぎる和音表記を常時見ているのが現状ですので、慣れっこになって親しんでいるという側面もあるはずです。
そのため、ある意味そういう表記の煩わしさ、めんどくささというのは「あきらめている」「吹っ切れている」部分も大きいかと思います。

数字付き低音は『和音の情報をとことん省略して表すけれど、それで十分だぞ!』タイプ

そして数字による和音表記。
よく『数字付き低音』と言われているもので、『音友和声』ではⅢ巻の末尾、p.418以降に説明があります。

バスの音に対して、上三声がどういう音度、構成になるのかを基本的にはたった一つ二つの数字で表す、という非常に優れものです。

そしてその数字付き低音の表記方法の中でも、上の譜例で試してみた「フランス式数字」というのは、転調における臨時記号をもその数字の意味として取り扱ってくるもので、このためいちいち和音表記の中で臨時記号を別に表す必要がありません。
フランス式
ということは、どんな複雑な転調をしても、あるいは和音構成音が複雑でも、一定の規則事項に基づくこれらの数字を書き込めば、これだけでバスの上に乗っかる構成音を全て表せます。

だからものすごく分析作業もあっという間で便利です。
あの和声学の名著『デュボア 和声学』などがこれです。

さすがフランスです。

『和音の音度が分からなくなるかも』『転調はどこ行くの?』

ですが、あくまでもこの数字付き低音の方法は、バスの上にどんな音が来るのか「だけ」を基本的に表現する方法になります。

とすれば自ずからまず二つの疑問ができあがります。

それは

・じゃあ、その和音がどんな音度か(ⅠとかⅡとか、ⅣとかⅤとか)すぐわかるかな?
転調が複雑になっていくと、主調とどういう調関係になっているのか、スパッとわかりますか?

というカベにぶち当たるはずです。

実のところ、私もよく『デュボア 和声学』の『課題実施例』を見て和声分析をしていますが、ハッキリ言ってこの点はどうしようもありません。

特に元の調、つまり主調が♯、♭の増えた調になると、その後に遠い転調を行っていたりする課題の分析は本当に難儀することがあります。

だからそういう実施例や実施作業については、あえて『音友和声』の各和音記号を臨時に使うなどして、分析のタシにしたりしていますね。

慣れるしかない

というわけで、おおざっぱに二通りの和音表記方法について、所見をお伝えしてみました。
もちろん指摘すべきことは他にもいくらでもあると思いますし、また私の感想も不備だらけと思われるかもしれません。

ただ、私自身は和声学を学んだ経験、そして教えている経験からして自分なりの分析をここに述べたにとどまります。

ですが、それであえて自分なりの結論、つまり「どちらが優れているのか」という事について最後に申し上げる事があるとすれば、結局のところ、

どういう表記方法でも欠点もあり、そして長所もある、ということ。
そして、大勢(たいせい)の動向にならって、同じものを手がけていけばそれで十分と思えます。

その上で、各表記方法の欠点を自分なりに補完し、克服していけば良いわけだろうと思います。

たとえば上のフランス式数字付き低音の場合、確かに音度や転調については分析上手強くなるかもしれませんが、それはあくまでも自分自身の中で、各バス音の音度や転調の表現について慣れていけばよいのです。

実際、昔々の作曲家たちもそうやって勉強し、また自分の中で消化していったでしょうし、だからこそ今でもこうして数字付き低音が日本の和声学テキストの中でも紹介されているワケです。

で、最後にぼやきを一つ。
『音友和声』、そういうわけで転調の表記などは非常に日本人が作成したテキストらしく、微に入り細にわたる綿密さが見られるのですが、その転調でも、単にⅴ調とかⅳ調などのカンタンな関係調への転調ならまだよいとして、逆にメチャクチャ遠い調の表記になると「これ何だ?」みたいな表記があります。

『Ⅲ巻』p.70~のように、主調に対して他の23の調との関係をしっかり表すことができますが、これらとフランス式数字付き低音の「表記になれ」たあかつきのことを考えたら、こうした奇々怪々な『音友和声』の転調表記に対しては、それこそ「数字一つ記入すればいいじゃん?」で終わるのです。

それを考えたら、なんだか和音表記の理解ですごく遠回りしているかも?などと思ってしまいますがいかがでしょうか。WWW

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