洋紀Hiromichiの部屋

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いろいろな意味で興味深い「別巻(音友和声)」

「和声学テキストのメジャー最右翼として君臨しているのは?」
といったら、間違いなく「音友和声」。
別名「芸大和声」というネーミングで有名な、音友社の和声テキストです。

その内容も、レベルに沿ってⅠ、Ⅱ、Ⅲ巻と別れていて、表紙がそれぞれ赤、黄そして緑になっています。
音楽の理論を大学などで学ばれている方なら誰でもご存じ、と言っても過言ではないでしょう。
  
一方、和声学といいますと、実習作業が不可分になります。
理論をしっかり押さえていくのも大切とは思いますが、その理論をいかように実際の五線譜上で実践していけるかどうか、ということがやはり大切になります。

そういう背景も絡んできて、一方で上記の和声学テキスト「音友和声」には、上記三分冊のテキスト中に収まっている課題の実施例を網羅した「別巻」という、黒い表紙のテキストが付随します。

池内 友次郎 (著), 島岡 譲 (著) ¥6,600

この別巻の内容、普通の他の和声学テキストのそれとは、

ちょっと一線を画している

それが実のところ私の見解です。

私の独断と偏見をたっぷり持ち込んで見解を打ち出しているわけなのですが、それをさておいたとしても、他の方たちもけっこう私と同じ方向性を持った意見ではないだろうか?
そう思えるのです。

私はこのテキストを使ってお二方の音楽講師について学習し、実習を続けました。
Ⅲ巻最後まで行き着きましたが、特に学習過程の後半になると、実のところ私に教授していた講師の先生も、どうやら

別巻に記載されている実施例を鵜呑みにして、それをまねたような実習作業は避けるべき

という見解だったと思います。

実際、その先生が私に課した和声が苦情の諸規則は、ある意味このテキスト中にあるそれよりも若干きつめだったかも知れません。

なぜそう言い得るのか?

といえば、やはりこの別巻の実施内容が、それだけの「問題」を抱えていたから、といえると思います。

いや、別巻の実施内容は何らの狂いもなく、きちんと他の三冊のテキストで教えている諸規則、禁則事項に十分則(のっと)っている、これはまちがいありません。

しかしながら、それでもある一定の「問題」がある、ということなのです。

その「問題」ゆえに、私自身、オンライン上で学習講座を運営して、受講者の方たちに和声学を教えていたりするわけですが、その方たちにはひとまず全員に、

別巻の内容は(私の方から適切に教えていくので)見ないでよいし、購入する必要もない

とお伝えしています。
この姿勢は今でも同じです。

もちろん別巻の内容にも看過できない論点事項もないわけではありません。
そういう場合には、添削上、補足事項として、いつも適切な時点を考えて受講者の方たちにお伝えする、という姿勢を取っています。

別巻の実施例ーその意味は「本巻の模範」と、もう一つあり?

「なぜそんなに別巻の実施内容を避けるのか?」

という疑問もあるでしょう。

それには二つの理由があります。

一つ目には、別巻を座右に置き、作業の都度別巻の内容を確認することで生じる弊害があるからです。

つまり、「ながら」の実施作業をしてしまうと、自身でより正確な実施を考えていく、その努力と工夫の機会をそいでしまうという恐れがあります。
言ってみればこうした「自分自身でまず考えていく」作業というのは、確かに一理はある、そして私が過去に学んできた教授の仕方でもありましたし、大部分の方たちは納得のいく理由と思います。

ところがもう一つの理由が問題になります。

それは、この別巻が単に本巻の模範解答ばかりを掲載している、とは言い切れないのです。
身もふたもない、ぶっちゃけすぎた言い方かも知れないのですが、あくまでも個人的な感想として、ひとまずそう言い置きます。

どういうことか、というと、この別巻は結局のところ、本巻では語りきれなかった理論や規則事項についての補足を兼ねている、ということ。

そして、同時にその「本巻の補足」というコンセプトを持ちながら、

ふつうは許されないが、中にはこんな(例外的な)実施方法がある、という意図を持ってか、そのような(場合によっては禁則破り、掟破りと見られかねない)実施内容を掲載している課題があったりします。

これが実のところ、学習する側はもちろん、教える側にとっても非常にセンシティブにならざるを得ないところです。

つまり、

別巻に載っている、そのような微妙な実施内容を安易に学習者に対して許していって良いものなのか?

これが非常にリスキーなポイントです。
一つ誤れば、危険な事にもなります。

池内 友次郎 (著), 島岡 譲 (著) ¥6,600

特に私の講座を受講されている方たちの中には、テストの受験をひかえておられたり、ピアノなどの音楽教室を運営しておられる方たちもおられたりしていましたので、そういう方たちに「何でも許してしまう」ような実施作業のあり方をお伝えするのは、避けなくてはなりませんでした。

加えて、特に初学者の方たちにとっては一番わかりやすい方法として、できるだけ保守的に学習を進めていただく、という姿勢が求められると考えます。

私自身、実際に学習した際、基本的には講師の方たちから一切別巻については買うように言われたこともありませんし、別巻の実施内容について触れられたこともありません。

というか、それどころか。
音大の入試などに際しては、あの別巻の内容をそのまま鵜呑みにするとかなり危険だ
という意味のことを講師から聞かされた経験さえあります。
とりわけ別巻の実施例全体の内、Ⅱ巻以降、そしてⅢ巻になると、さらにそのような傾向を持つ実施例が散見される、というのが私自身の見解です。

Ⅲ巻は実作への橋渡し?別巻では「例外や掟破りも教えます」の立ち位置?

ただ、考えてみればⅢ巻のようなトップレベルの内容になると、実作に向けての準備段階を兼ねてくると思いますから、そのような実作との橋渡しの意味も出てくるでしょう。

であれば確かに本巻では扱わなかった(というか、扱えなかった?)例外的事項、例外的な実施内容も盛り込んでいく、そういう配慮も生じていったのかも知れません。

ですからこういう背景もあって、私は自分の講座で和声学を教える場合、まず自分自身で別巻の内容を十二分に把握して、受講者の方たちを教える際には、その内容を取捨選択する、そして別巻を買う必要は無い、安易にその内容を見ていくのは危険、というスタンスをとり続けているのです。

実際、私も講師からの学習期間を終えた後、あらためて別巻の内容をじっくり確認していた時期があります。
そうすると二つの点に気づきました。

一つには、確かに別巻には、本巻で言い尽くせなかった論点事項がかなりあります。そのうちのあるものについては本巻を補足するという形を取りながらも、確かに啓発的な、そして重要な内容も出てくるのです。

もう一つは、そのような本巻の補足事項として掲載している別巻中の諸事項というものが、たとえばデュボアの「和声学」など他の和声テキストとを比較した場合、かなり重要な事項として真っ先に載せていたりするケースもあります。

たとえば、三冊の本巻の末尾に出てくる「補足事項」のコーナー。
テキスト中では「補遺」とか、「配置・連結の一般的可能性」と題している、あそこですね。
これらは「補足事項」と銘打ってありますが、その中には学習する方々にとって、

「最初の内から知っておくべき内容ではないだろうか?」

と思えるような内容もないわけではありません。
というか、中には

なぜこんな大切なことを補足事項に回しているのか?

というように、首をかしげる場合もなきにしもあらずです。

ですので私は、自分の講座上では、これら補足事項については、必要と思われるタイミングで、その都度学習する方々に対して付加的に説明したりしているのです。

和声学もそうだと思いますが、完璧なテキストというのは存在しないと思いますし、それを利用して他の方たちに教えたりする場合には、必ず教える側で工夫も必要になると思います。

ですがそういう現実的な限界の中で、この「音友和声」というテキストは、やはり使いやすいし各事項を丁寧に扱っている、そういう優れものの最右翼ではないかと思います。

別巻は後の研究段階で重宝?

なんだか別巻のディスり記事にみたいになってしまいましたが、もちろん別巻も十分に優れているものですし、私の考える限りでも非常に好ましい使い方もあります。

それは、本巻三冊を一通り終わった、あるいはグレードテストなどを取り終えてしまった後、自分なりに研究の材料として使う事ができる、という点です。

池内 友次郎 (著), 島岡 譲 (著) ¥6,600

実際、バッハの4声コラールなどの実作を見れば、それこそ和声の別巻、ましてやテキスト本巻にも出てこない程の例外的な内容や、果ては規則無視の「掟破り」みたいな内容すら出てきます。

こうした実作レベルの分析や、その応用に際してのヒントの一つとして、別巻のあの例外的な実施内容は大いに参考になりますし、私自身、バッハのコラールを分析する際には少なからず役立っていると自認しています。

というわけで。

音友和声の本巻は確かにⅢ巻に至るまで、完璧に押さえてマスターしていく必要があるでしょうし、とりわけ音大受験とかグレードテストの受験に際しては、そういう厳格な規則事項になれる必要があります。
そういう場合、否が応でもその厳しさについて行かなくてはならないでしょう。

その苦労をたっぷり経験し(こう言ってしまうと学習者の方たちに申し訳ないのですが笑)、そしてそういうテストや受験を終えた後に、本当の意味の「応用」として、別巻の内容に触れるのならアリ。
別巻の深さや魅力は、そういうステージになって、初めてわかるのかも知れません。

   

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