和声学といえば音友テキスト「和声 理論と実習」。
この4分冊のテキストが日本ではほぼスタンダードでしょう。音大でも音楽教室でもたいていはこのテキストを利用されていると思います。
私自身もこのテキストで和声学を学びましたし、また現在、自己の運営しているオンライン講座「和声教室オンザウェブ ー海ー」の中でこのテキストを利用しています。
大まかな構成として、このテキストは本編の実習と解説の部分が主体になり、そこに巻末の補足的な部分を加えて構成されています。
ですが実のところこの本編から外れた巻末、つまり「補遺」とか「和声実習における原則的な公理」、「配置・連結の一般可能性」という部分の内容もかなり重要です。
というか、本編をマスターしたならぜひとも知って欲しい重要な情報が満載になっています。
どういうことが書かれているのか?
そしてどのように重要なのか?
今回は標準配置・連結と標準外配置・連結のハナシを中心に語ってみましょう。
巻末の諸事項はひとまず学習の進んだ方向け
先にお伝えしておきますが、音大にしろ音楽教室にしろ、おそらくはこれら巻末事項について、それほど突っ込んで学習することはないと思われます。
だから言い換えますと、たいていは本編のみを学習対象としながら上の標準配置、標準連結をモットーとして、特に初段階つまりⅠ巻はもとより、その先のⅡ巻、Ⅲ巻までもこの「原則」に引き寄せられる形で学習を進めていくことになります。
この辺教師側の裁量も入りますが、私の学習時代もそうでしたし、そういう「標準的な」配置・連結は確かに音楽上でも好ましいのです。
音楽上好ましくなければ、そもそもこういう取り決めを最初に厳重に与えることはありませんし。
それに加え、そもそもふつうは膨大な規則や実習に追われて本編だけで手一杯になると思います。
だからこういう現実的な都合を考え合わせると、巻末の諸事項はひとまず学習の進んだ方向けであり、余裕や余力のある方向けの部分になるでしょう。
これは当然ながら、本編のみでも十分に学習すればりっぱに効果も見込めるからです。
巻末事項は本編の言い換えやまとめ、焼き直しのような様相もありますし、確かに本編の「補助」の役目を負っています。
だから基本的には補完的な部分であり、学習をスタートするに当たっては最初から全力で手を出すべきところでもないと考えられます。
【和声 理論と実習】巻末には本編に勝るとも劣らない重要事項もたくさん?
ただその一方、学習を継続した結果本書のある一単元を終えてみたり、分冊の本編一冊全体を終えてみたりとか、学習が一通り済んだ後でこのテキストを見返すなどしてみると、この巻末には和声学についてかなり濃厚で重要な内容もあるのが分かると思います。
その一つには本編では説明しきれない諸事項。
もう一つは、本編の内容を総括する形で、それらを効率的・合理的にまとめている内容。
この二つが最も重要と思いますが、これらなどなどが巻末には見られるはずです。
そしてこれに付け加えれば、その中にはむしろ
・本編と並行して学習すべきこと、その方が望ましい、
・本編を終了した後でもよいから、決して見逃すべきではない、
そういう重要度の高い内容が入っているとも思えるのです。
よって、ついつい「巻末」ということでないがしろにされてしまいがちですが、実のところは本編に劣らず重要性が高かったり、むしろ本編の学習と並行する形でぜひとも押さえておきたい内容もあると考えてよい、それがこの音友テキスト【和声 理論と実習】の巻末における諸事項と感じられるのです。
もっとも巻末事項すべてを取り上げるのは学習される側にとって負担に過ぎると思われるので、ほとんどは特に有用そうな事項についてのみです。
じっさい、私は本テキストをよく「デュボア【和声学】(音友社)」とよく比較しますが、【和声 理論と実習】の巻末に、それこそ一見「ほんの付け足し程度」のように記載されているに過ぎない様な各論がありますが、それが「デュボア【和声学】(音友社)」では初学段階の筆頭に現れて、学習を進めるに当たって非常に重要な要素となるような記載の仕方がよく見られます。
「デュボア【和声学】」は100年以上も前に作成され、古本となってしまっているとはいえそれでも今なお日の目を見ているといえるほどのテキストと思いますし、その内容のかなりの部分が【和声 理論と実習】の執筆陣ひいてはその学習内容に対して大きな影響を与えていると考えられます。
「デュボア【和声学】」と【和声 理論と実習】とでは、執筆時代もテキスト内容もかなり相違があますが、それでも上記のような特徴を持つ「デュボア【和声学】」の中で、非常に重視されて学習の初段階で与えられながら、【和声 理論と実習】の中で巻末にのみ記載されている各論点事項は、もしかすると軽視したりスルーすることがかえって問題になるであろうことは十分予測できるのです。
こういう意味を含めながら、私自身学習してきましたし、また同じように出来るだけオンライン講座「和声教室オンザウェブ ー海ー」で学習者の方たちにお伝えしています。
テキスト作成陣も暗黙了解?実施例集【別巻】でも頻出する配置・連結の補完内容
そしてこれも付け加えておきますが、こうした巻末事項に対しての観点・感想については私1人の独断というわけでもなく、それどころかこのテキストを作成した方々も同様に感じていたようです。
その証拠というか裏付けというか、それが分かるのが実はこのテキストシリーズの【別巻】、つまり本編各実習課題に対する実施例、そしてそれらに対する注意書きです。
これらには巻末補足事項の内容がよく現れます。
同時にまた、他の(実習用)テキストには現れない、加えて巻末の補足事項にさえ現れてこない規則事項や実施例なども現れることがあります。
要するに、この【別巻】を通して、本編では扱えていなかった各巻の補足事項と、それ以外の諸事項とを実施例の中で取り扱い、また補足して説明してもいる、ということ。
これがこの【和声 理論と実習】テキストの全体像と言えるでしょう。
ということで、この音友和声テキスト【和声 理論と実習】の大まかな全体像の説明を終えてみました。もっとも、最終的な学習段階になるⅢ巻まで入れるとまたハナシが少々変わってくるかと思いますが、大体は上記のように理解しておいて十分だと思います。
本編の他にぜひ知っておいて欲しい巻末の「配置・連結」とは
そういうわけで、だいたいこのテキストのザックリな構造はおわかりになったと思います。
そこで今回のテーマとした標準配置・標準連結、そして標準外配置・標準外連結について、巻末の諸事項のハナシをからめて解説してみます。
この「和声 理論と実習」で学習すると、Ⅰ巻の一番先の方で習うのが標準配置、標準連結とかいう「和音構成音(ひとつの和音を構成している4つの音)の配置」、「和音連結(居並んでいる二つの和音のつなぎ方)」です。
このテキスト独特の規則といえます。
その先にちょっと進むと今度はそれらを外れた「標準外配置」「標準外連結」という配置・連結が出てきます。
テキスト本編では大体この規則にそって学習が進みます。
ところが、本編には直接的な説明はないものの、知っておいて損はない、ぜひ知っておくべき配置・連結が巻末事項には出てきます。
それは多分に上でいう標準外配置、標準外連結のカテゴリーになりますが、そういう「使わざるを得ない」「使ってもよい」「むしろ使うべき」ケースもある、ということです。
初学者の段階ではもちろんこういう巻末事項に手を染めるべきではなく、むしろ間違った配置・連結を生じたり、またそこから来る音楽的な認識なども弊害を受けるかもしれません。
だからあえて「後回し」とすべき事項ですが、それでもそういう“特別な場合”にだけ使うべきものというような取り決めをしておき、学習が進んだ後々で使ってみれば、素晴らしい魅力を発することが期待できます。
そういうふうに
特別な場合を除いて使っちゃいけない!
という意味の配置・連結なワケです。
そこでまずこの巻末事項のうち、重要と思われる「標準外配置」について語ってみます。
内容はあくまでも【和声 理論と実習】4分冊の一冊目、Ⅰ巻の内容が主体です。
【1】基本として「終結和音はソプラノに何でもかんでも主音」が正義
その一つが、終結和音の配置になります。
終結和音、つまり私が「曲課題」と呼ぶ、各単元中末尾にある大きな課題の終結和音「Ⅰ」ですが、これはソプラノにできるだけ音階上の主音を当てはめることが望ましい、というものです。
たとえば、ふつう各単元の「曲課題」についてはほぼ全部が全部、終結和音は次のように三つの構成音がすべて出そろった「標準配置」、かつソプラノに主音を置くことができるように設定されているといって過言ではありません。
※Ⅰ巻も学習が進んでⅤ7の和音の単元以降になると、本編の中でも終結和音Ⅰとして第5音を省いた「標準外配置」が許されますが、ここではひとまず置きます。
※※上の譜例中、左から2,3番目に当たる「Ⅱ1ーⅤーⅠ」の譜例では、そのⅡ1の和音が、上三声に第3音を含む「標準外配置」であることにもご注意ください。通常こういった一転和音では上三声に第3音を含ませず、その結果他の構成音を重複して四声体にしますが、このⅡ1はその例外で、オクターブ配分とともに逆にこういう「標準外配置」を使うように規定されています。
ところが、学習が上記※に至る期間中であっても、この終結和音における「標準外配置」を許す場合がある、むしろその方が(ソプラノに主音を置く都合上)望ましい、という配置・連結が巻末の内容に登場します。
下のようなものです。
なぜこうまでして集結和音のソプラノに主音が要求されるのか?
これについては私見になりますが、終結和音というのはこういう楽曲形式の課題の場合、その「終結性」、つまり楽曲の終結するイメージをしっかり保持させる機能を確立する必要があります。
ソプラノに主音を置かず他の構成音をⅠに持ってきますと、曲がまだ終わりきらない、その後にも曲が続く、そういうニュアンスに陥る危険があるからです。
また、裏の理由としては、こういう風にして終結和音のソプラノに主音を置くべきことを現実に課題作業に課しますと、結局のところその(ソプラノに主音を持つ)終結和音の配置に達するまでの課題作業を工夫していく必要も出てきます。
つまり、終結和音に至るまでの間、上三声の配置連結や和音設定によってはソプラノ主音の終結和音にたどり着くことができないケースがままあるのです。
それを避けながら、「どのようにして上三声を配置・連結していけばよいのか?」という工夫や創案を錬成していくこと。
それもまたこういう課題作業の学習内容の一環と考えられますし、それを意識してのことか、【別巻】でもほぼすべての実施例に「終結和音のソプラノに主音」が見られます。
※なお、学習が進んで行くと、特にⅢ巻では終結和音Ⅰのソプラノとして音階上ⅴを置くことが許されてくるケースがありますが、ここではひとまず置きます。
【2】後々メリット!導音が主音へ進まない連結
これはⅢ巻、あるいはⅡ巻にもその実施例と説明がありますが、実はⅠ巻でも巻末にはこの説明事項が載っています。
Ⅰ巻では最初の段階、そして本編全編にわたって
導音は必ず次に主音に進まなくてはならない
という大規則が登場して支配しています。
ところが巻末には、ある配置をからめた和音連結にあっては、他の導音進行が許されるケースが紹介されています。次のようなものです。
ご覧のように、Ⅴ(7)⇒Ⅵの連結で、上三声がある種の「密集配分」をとりながら同時に導音がアルトにある場合、アルトの導音が音階上ⅵ音へと2度下行することができる、というものです。
※なお上の譜例は長調ばかりですが、短調では不可能になります。短調だと導音と音階上ⅵ音との間に増2度が生じるからです。
実際のところ、この進行を知って利用することができるようになると後々の学習に大変便利になります。
ちょっと先のハナシになりますが、Ⅰ巻を終えてⅡ巻、Ⅲ巻になりますと、「借用和音」つまり「その調には存在しない、(他の調の)和音」が頻発しますが、その際の実施作業で一番大もめして引っかかってしまう禁則事項に「対斜」というのがあります。
この対斜というのは和音連結で、二つの音のうち片方だけに♯や♭がつくなどして半音関係にあるものが、互いに異なる声部に置かれているものを指しますが、この対斜は特定の場合を除いて絶対に避けるべきという規則事項があります。
ところが実際にⅡ巻以降でこういう音階上ⅵ音上で対斜をうっかり生じるケースが意外と多いのです。
※なおこれも私見ですが、音階上ⅳ音上でもドッペルⅤ和音を学習する関係で、対斜が出来やすくなりますが、この場合許容事項も多いので音階上ⅵ音上ほどではない印象です。実際、上の譜例のうち右の方、ドッペル和音のバス音と後続するⅤ7のアルト音との間に対斜がおきていますが、Ⅱ巻のテキスト本編でもこれは許されるものとしています。
ところがここで、導音の2度下行を許しておくと、上の様な対斜の悪進行が「同一声部において増一度進行(半音進行)」を呈することが出来ます。
これが実は対斜の際の許容事項で、これにより対斜の問題が解消されてセーフになるのです。
このためもあって私の運営する「和声教室オンザウェブ」では、なるべくならこの下行進行の利用を出来るだけ受講者の方たちにお教えするようにしています。
この連結の場合、そもそもソプラノからⅥ和音の主音へと進んでいますが、このソプラノの主音への進行によって、隣接声部アルトの導音が主音へと入っている、という擬似的な意味合いもあると思います。
つまり現実には導音が主音へと進んでいないものの、すぐ上のソプラノが3度という狭い声部間隔をもって主音が存在して擬似的ながら「アルトが主音へと進んでいる」ようにも聞き取れる、そのような微妙な差異しかない。だからこの様に操作してもそれほど不自然さ、違和感も少ない、という理由だろうと思います。
これを私は「導音の疑似進行」とか「導音の疑似解決」と呼んでいます。
現実には導音に不正規な進行があったとしても、この様な擬似的な進行・解決によって正規の、つまり主音への2度上行が容易に確認できるなら、こういった限定的なケースに限って容認される、これがこのテキストのスタンスと考えてよいでしょう。
もう一つ、理由があるとすれば特にこの和音連結では正規の導音進行による2度上行をとると、結局ソプラノとアルトが「同音」つまり単一の音となり、声楽もしかりですがそれ以上にピアノなどの鍵盤上での発音だと全くの1音のみの発音になります。このため実際には4声つまり4つの音ではなく三つの音、三声というか細い響きになるわけです。
もちろん、たとえば「四声体の各声部は、それぞれ一個の独立した声部として、それにふさわしい正しい動きにならなくてはならない」などなど、いろいろな見解があるかと思います。
ですが、上の譜例に添えた記載にもあるとおり、これは一方四声体和声の響きというものを維持する上ではむしろ「あまり好ましくない」状況になるはずです。
こういう理屈を合わせたら、ここで導音の下行という「非常手段」にも意味があるように感じられます。
【3】共通音を保留しない「標準外連結」は魅力満載?
このテキストではまず標準配置・連結を学習し、その後である和音の配置や連結における標準外配置・連結を学習します。
標準配置・連結のワクに収まりきらない、けれど基本段階でやはりマスターしておくべき「それ以外の配置・連結」というワケで、本編でも取り上げている重要なものですね。
下のようなものになります。
ところが巻末事項でもこれに輪をかける形で、標準外配置・連結がよく現れますし、繰り返しますが、それらの多くは本書シリーズ【別巻】(実施例)でも頻出したりします。
それをちょっと取り上げてみましょう。
まずテキストⅠ巻、本編でよく目にして利用されるのは次のような連結になるでしょう。
ところで、こ上の譜例のうち、その一番左の「ⅡーⅤ」に目を向けて欲しいのですが、この連結をそっくり2度ほど下方へ移すと、下のような連結が出来上がります。
これも巻末事項で紹介されている「共通音を保留しない連結」の一つです。たいていはⅠとⅣの連結では共通音を保留するのがメジャーですが、場合を選んでこの様な連結を施すことも可能になります。
というか、そもそもこれも巻末で触れていますが、禁止事項に当たらない連結や配置を用いる限りは、ひとまずどんな配置や連結を用いてもよいことが明記されています。
共通音がある連結の場合、これを保留するというのもその一環になりますが、和声書法上、「そうしない方がよい効果が期待できる」ケースもあるわけで、その典型のひとつが先に挙げた譜例「Ⅱ(1)⇒Ⅴ」となります。
これとともにまた再びⅠ巻の本編に目を移すと、同じく以下のような「共通音を保留しない連結」が許されるケースが紹介されています。
実はここでも先の「Ⅰ-Ⅳ」と同じく、音度を変えることによって新たな連結の可能性が広がります。
下の右の譜例のように「Ⅰ⇒Ⅵ」における連結のようなものです。
類似性を感じていただくために、左の譜例のようなハ長調ではなくあえてヘ長調にしてみていますが、もっともこの連結は巻末事項にも記載はありません。
ですが後々で学習が進んで行けば十分使い道がありますし、私もⅠ巻以降、特にⅢ巻に入った方たちにはぜひ覚えておいて頂きたい連結の一つです。
実際にバッハがこの連結をコラール編曲の中で使っていたりします。
そして同じくⅢ巻の内容になりますが、Ⅲ巻後半で学習する「反復進行」の各種進行のうち、「ⅠーⅣーⅡーⅤーⅢーⅥ・・・」というものについては、下のように上のこの二つの「共通音を保留しない連結」を連続的に用いることで、よい音楽効果が得られます。
実際、Ⅲ巻の「反復進行」本編の譜例中にもこの進行があります。
だから、あえてこの様な進んだレベルのハナシを広げてみますと、共通音を保留する連結と、保留しない連結とでは何が違うか?
前者は書法上で作業のしやすさがありますが、その分音楽表現的には穏やかな指向が望めます。
後者はその逆で、書法上いろいろ気をつける必要が出てきますが、音楽表現上はダイナミックさが加味されると予測が出来ます。
私見ですが、やはりこういう風な結論が出来るでしょう。
【4】開離と密集のまぜこぜ連結(配分転換)も捨ておけない?
標準連結では、隣接する和音が基本位置同士の場合、上三声を同じ配分、つまり開離配分または密集配分に統一するようにし、これを配分一致と呼びます。
一転和音ではこれに配分移行というのが加わります。
つまり片方の和音が開離配分または密集配分の時、もう一方の隣接和音が一転和音の際には、上記のように配分一致させるか、またはオクターブ配分つまりソプラノとテノールの感覚が1オクターブの配分となる、これが配分移行です。
※なお、さらに二転和音の場合には標準配置として上三声が三種の構成音を全部そろえた配置になりますが、ややこしいのでひとまずここでは伏せておきます。
さて上記の配分一致、配分移行の他に、配分転換という配置・連結の方法があります。
これは先行和音と後続和音とが、開離・密集配分二つのうち、互いに異なる配分同士でつながれている和音連結です。
つまり先行和音が開離配分なら後続和音はその逆の密集配分、先行和音が密集配分なら後続和音は逆に開離配分になります。
当然ながらこの配分転換は上の配分一致や配分以降よりも一段と唐突性が強まるわけで、そのため標準連結の外、つまり標準外連結の一つになります。
また、そういう性質のために配分転換はふつう、自由に用いることが出来なくなり、禁止事項にハマります。
ですが上で説明したⅡ1和音で、特にテキストにある「最適配置」を導く場合、先行する和音が開離、密集そしてオクターブのどの配分を呈していても「常に良好である」というお墨付きがテキスト本編にあります。
この場合、Ⅱ1の最適配置というのが上三声では密集配分をとるため、先行和音が開離配分の際には、「密集⇒開離」の配分転換に当たることとなります。
しかしながらこの「最適配置Ⅱ1」は、そういうふうに配分転換が生じても、それ以上に音楽効果が高いということで、ふつうでは禁止事項である配分転換が例外的に許されています。
ここで多少ハナシを広げますが、テキスト上では後の方にもこういう配分転換を許容している例外的な連結がまま出てきます。
その際には、このⅡ1と同じく
配分転換を生じている和音連結のうち、その一方が少なくとも和音の最適配置となる
ケースに当たります。テキスト上では上記のようにハッキリと明記がないので、これをぜひ覚えておいてください。
つまり下のような関係性があるということです。
禁止事項<最適配置
(真ん中の不等号は優先順位を示す)
配分転換は唐突生があってしかも連結が複雑化するため、こういう初学の段階では禁じ手にされていますが、実のところそもそも他の和声学テキストでは、こういう標準連結とか標準外連結の取り決めがありませんので、モノによってはかなりアバウトになっているといえるかもしれません。
ということは、この配分転換という連結自体も、適宜に用いて音楽を作るのに頼みとなれる要素と言えるはずです。
実際、やはりこのテキストの巻末には、配分転換の実例が以下のように示されています。
ところでこれも、下のように平行調であるイ短調の上でも使えることが期待できます。
こういう配分転換は、何れであっても唐突生を伴うことは否めません。
だから乱用には十分気をつけるべきです。
ですが同じく、下のようなⅢ巻の範囲に当たる「反復進行」ではかえって魅力的に聞こえる場合が多々あります。
これに配分転換を用いると、以下のようになります。
いかがでしょうか?
ということで、配分転換は確かに唐突生を伴いますが、用い方によってはその唐突生をプラスに生かすことで、感動的な表現だったり音楽的に美しい表情を生むことができます。
【和声 理論と実習】Ⅲ巻までの基本はやはりⅠ巻の本編?
と言うことで今回も長々になりましたが、音友の鉄板テキスト【和声 理論と実習】における巻末事項のめぼしいところ、利用活用がオススメしたいところをかいつまんでお送りしました。
これで終わりというわけではなく、他にもお伝えしてみたい内容がかなり残っていますが、記事の長さの都合でひとまずここで打ち止めにしたいと思います。
ただ最後に言いうることとして、Ⅰ巻Ⅱ巻Ⅲ巻いずれにしてもあくまで本編が基本であり、まずは何よりも先駆けて習得していくべきこと、これは間違いないでしょう。
そしてそのうち最も基本であり、かつまた一番顔を出してくる内容がⅠ巻の本編。
こう言い切ってよいと思われます。
ともすればこのテキストが膨大なボリュームを持つために、どうしても先へ進むとそれまで習い覚えた諸事項を忘れたり曖昧に記憶したりとなりがちで、それこそ思わず足下をすくわれることも頻出するかもしれません。
ですがそれを頑張って克服できたらそれこそしめたもので、そういう際にはやはり巻末事項をがっつり駆使して自分の音楽表現の糧(かて)にしていくべきでしょう。