私(Hiromichi)は、「和声教室オンザウェブ -海-」という和声学、対位法のオンライン学習講座を開いています。
中級、そして上級レベルの方もお教えすることがありますが、基本的に多くは受講希望者入門レベルの方たちです。初めてこの講座で和声学や和声の実習に触れた方も少なくありません。
お陰様でもうかれこれ20年くらい運営していますが、特に受講される方の多いのが和声学。
ですがそのような初学の方たちにとって、和声の実習を初めてご経験したり、また多少経験を積んだ後でさえも実習の仕方が難しくて困る、というご様子やご意見などもあります。
そこで今回は、特にそのような初学や入門レベルの方たちにとって、理論とともにどのように和声の実習を進めていけばよいのか?
それをお伝えしてみましょう。
【総括!】理論と実習が不可分-和声学は実習なくして先に進めない
和声学を学習するとなると、超メジャーなテキストである「和声 理論と実習(音友社)」のテキストタイトルでもおわかりと思いますが、実習が必ずついて回ります。
和声学で実習というと、初歩の段階だったらあるバスの音が与えられ、それに各課題の指定に基づいて、そのバスの音の上にいくつかの音を積み上げていく、というのが基本です。
そこにはきちんと音の積み上げ、そしてそれによってできた音のかたまり(和音)を連結して行くことになりますが、こうした実習は、その作業に必要となる様々な規則や理論を十分に理解し、そして手足のように自在に運用できるテクニックが必要です。
となれば、確かに和声学を学び始めるといくつもの規則や理論が顔を出してきますが、それらを縦横無尽に駆使するようにならなくてはなりませんので、そのために実習という作業が必要になるのです。
実習とその反復こそが理論や諸規則マスターのキモ
その実習の中には、実際に自分で課題を進めてこしらえてみた和音、そして和音どうしのつながりである和声を自分の耳で実際に聞いて、その響きや音のイメージを自分の耳、そして頭の中に刻み込んでいかなくてはなりません。
そして、そのためにはよほどの天才でない限り、何度も何度も課題を繰り返したり、課題の数をこなす必要が出てきます。
よって、対位法もそうですが和声学を学習し、進めていくためには理論の把握と同時に、実習作業が絶対に必要なのです。
そして同時に、その実習作業は単に
「一度やったことがあるからもう必要ない」
「一度経験しただけで終わろう、先に進もう」
としてしまうのは問題です。
なぜなら、理論の記憶、そしてそれを実際の課題実施作業や作曲などで自由闊達に駆使・運用できるためには、飽くことなく何度も実習を反復・継続して行かなくてはなりません。
とりわけ、自分の苦手な課題や実習が見つかったら、他よりも増して納得いくまで反復して取り組む必要があります。
私が今回お伝えしたいのは、まさにこの点につきます。
ですから、現在でも受講されている方々のどなたにも申し上げることがあるのですが、講座上で送られた実施済み課題を添削するのは、基本的に一題につき一度きりになるものの、特にご自身で「うまくできなかった」「十分な理解ができなかった課題があった」と思うような場合には、後で何度か課題をやり直してみることをおすすめしています。
もちろんこれは、理想論でしかないかも知れませんし、特に限られた学習時間しか持てない方が大半だと思いますので、いつもこういう反復練習を目指していくのは無理かと思います。
しかしながら、そういう限定された学習時間の中でも、「不出来な課題」「理解しきれなかった課題」に絞るなど、できる限りの工夫をしながら反復作業の継続をしていただきたいのです。
他の記事でもお伝えしているように、私自身は音大の出身ではありませんが、20代の頃、クラシックの作曲の基礎とともに和声学、対位法の実習や理論を何年にもわたって学びました。
そして今は、このブログでご紹介しているような自作曲を作ったりしています。
ですが私も結局はほんの凡人にすぎませんでしたので、やはり理論を十分に押さえるには実習、そして反復練習しかありませんでした。
このためあくまでも自分の経験上から考えてみれば、やはり他の学習希望者の方たちにも当てはまることは間違いないと感じますが、そのような私であっても、つたないながらこのブログでご紹介している曲をつくることができました。
そして、ここまでこれたのは、やはりくどいほどに実習や理解の反復を行ってきたのが土台になっていると信じています。
対位法でもそうですが、自分なりに納得のいかなかった和声の課題を(頭の中でも)繰り返してみたり、あるいは作曲の作業でも腑に落ちない音やフレーズを何十回となく聞き直しているのです。
ですので覚えたい、マスターして自由自在に駆使できるようになりたい、と考えるなら、必ず繰り返すべきです。
そして、和声や対位法に興味があったり、あるいはそういう本格的な実習をご経験したいとか、クラシックの作曲を経験してみたい方たちにとって、より敷居の低い形でそういった学習内容に接することができるようになれれば、と考えて構築し運営しているのが、つまり今の「和声教室オンザウェブ -海-」というサイトです。
ということで長くなりましたが、何にも増して和声学のマスターには、これが一番重要なキモにちがいありませんので、十分にスペースを割いてお伝えしてみました。
それでは次に、実際に和声学の課題を実習するに当たって、各段階を作ってその段階ごとにどうすべきなのか?
それを説明してみましょう。
【1】一つの和音をつくったら、各声部の和音構成音と音域を確認
まずは一番の初歩からです。
ある一つの和音を作ることからスタートしてみましょう。
和声学の実習を始めると必ず出てくるのは四声体。
その四声体のうち、ほぼ必ずテキストで与えられているのが、一番音域の低いバスですね。
そのバスの上に、他のソプラノ、アルト、テノールといった三つの声部に該当する音を積み重ねていくことになります。
この三つを「上三声(じょうさんせい)」とも呼びます。
テキストに出てくる和音構成音の種類や音程に従って、この三つの音をその上に置いていくわけですが、ここで注意しなくてはならないのは、
上の三つの声部には、それぞれ守るべき音域がある
ということ。
声部ごとに異なる音域ががあるわけで、三つの音がそれぞれの声部の音域の中きちんと収まっているのかを、確認しなくてはなりません。
もちろんバスも同じなのですが、このようにまず一つの和音を作る場合、上の三つの声部では
- 三つの声部の和音構成音の音度(つまり音の高さ)が、正しい高さに置かれているか?
- そして、各声部に割り当てた三つの和音構成音が、それぞれ各声部の音域の中に正しく収まっているか?
- さらにもう一つ付け加えると、バスを除く三つの声部の和音構成音の音度(つまり音の高さ)が、その上下関係を正しく配置しているか?
要するに、ソプラノの下にアルトがあり、その下にテノールが来、そしてさらにその下にバスがあるか(バスとテノールは同一音つまり完全一度もアリ)?
この三つをしっかり確かめていく必要があります。
上のどれかひとつが欠けていても、正しい和音はできません。
車の運転と同じ!同じ課題を繰り返して目視・頭の中だけで正確にできるように
ココでまず、次のことを押さえておくとよいでしょう。
要は、このような和音の構築を、目で見てすぐに頭の中で、上の二つの要件を守ってできるようになることです。
つまり与えられているバスを目にしただけで、頭の中で上三声の構成音が正しくおけるようになること。
まずはこれを目指していくことですね。
そして、そうなるためには何よりも繰り返すことが大切です。
自動車の運転や、数学の計算とけっこう似ていると思いますが、同じ課題を何度も繰り返すこと。
この「同じ課題」というのが重要です。
最初のうちはどうしても、テキストの説明箇所と首っ引きになります。
大変、といえばその通りなのですが、同じ課題を何度も繰り返していくうち、自然に要領的なものを記憶していったり、目視でわかるようになります。
ですので、繰り返していくうちに目や頭が慣れてきたら、空(そら)つまり頭の中だけでできるようになりますから、いちいち五線譜に書く必要はありません。
実は同じ課題を何度も繰り返す、というのはココが大きなメリットです。
同じ問題や課題を繰り返すと、初回が一番苦労するわけですが、二度、三度、四度五度とくり返していくうちに、必ず超楽ちんになりますし、初回の何分の一くらいの労力ですむようになります。
何度も同じ課題を繰り返すと、その正解は記憶できるようになりますが、そのような記憶の過程で自分の頭の中に正確な各声部の音域、そして構成音がインプットされるのです。
そしてその感覚を経験できたらしめたもので、最終的には課題(バス課題)を見て、頭の中ですぐに正確に上三声ができるようになります。
自動車の運転なら、最初はなかなかうまく車庫入れができなかったりしますが、運転する車のクセや感覚を頭や体で覚えていくうち、最初に車庫などに置いておいた目印などを見なくとも、ピタッとできるようになることと同じ。
そうとらえてよいでしょう。
【2】「場合分け」によって二つの和音を連結の連結を整理
次に、こうしてできた和音を連結をする、その仕方です。
まず二つの和音の連結の仕方を簡単に説明しますと、
「場合分け」して、自分なりに整理すること。
そしてこれも、その「場合分け」が頭の中だけでできるようになるまで繰り返してみること。
こうなります。
(「場合分け」については、また別記事でも説明しますが、今回は下に示す和声テキスト(Ⅰ巻)、p.39の一覧表のものだと考えてご覧ください。)
二つの異なる和音同士をつなげる場合、
それぞれの和音の種類、そして
二つの和音の間の音度の差
によって、連結の仕方も異なっています。
このうち、二つの連結された和音のうち、最初の和音の種類ごとに、二番目の和音はどれが選ばれるべきか、という点についてはテキスト「和声 理論と実習 Ⅰ」では39ページ(下)に一覧表があります。
しんどいかも知れませんが、この一覧表は確実に覚えておいてください。
最初は和声課題の実習を行うごとに参照することになりますが、何度も繰り返して覚えなおすうちに、必ず身についてきます。
この一覧表による和音連結の「場合分け」が、非常に大切です。
そして、これもぜひ知っておくべきことですが、後に学習が進んで「第〇転回」とか「異なる和音形体」など、いろいろな和音の形が現れてきますが、それらも全て含めて、この一覧表の連結が当てはまります。
なぜかこの点はこのテキスト中に記載がないのですが、間違いなくⅢ巻まで含めて全ての学習過程をカバーする連結の仕方となりますので、必ず押さえておくようにします。
「継続」し「繰り返し」て「覚える」から「自然に作業できる」へ
そういうわけで和声の実習について今回、一番初っ端(しょっぱな)的にキモになるコツをお伝えしてみました。
和声の実習というのは、たとえばポピュラー音楽の方へ目を向ければギターコードという便利な表示・理解の仕方もあります。
ですがこういう風に、クラシックの和声を本格的に理解しようとすると、最初のハードルがなかなか高くて、理論を理解するのに右往左往するはずです。
そこへ持ってきて、実習と理論の理解が表裏一体。
そうなればどうしても引いてしまう結果となることが多いのです。
ですがいったん和声の習に慣れてしまえば、コードネームよりも非常に合理的で、和声全体の理解も進むと思いますし、今まで自分の中で足りていなかった理論の押さえも補完できるようにもなるでしょう。
理論と実習をいっぺんに進めていくとなると、確かに大変かも知れませんが、それをより易しく、そして効率的にするのが「反復」なのです。
課題作業を繰り返していくうち、和音設定やその連結は徐々に頭に入り、覚えていくことができますが、要はそれをあたかも「呼吸をするように、自然に作業できる」ようになるまで継続することです。
先へと進むのも確かに大切ですが、それと並行しながら、自身の不出来な論点理解や実習済み課題に再チャレンジすること、そしてそれを何度もキーボード上で発音させていきながら、
「どういう和音や和音連結にすると、より美しい和声になるのだろうか?」
と、探究心そして遊び心を自身の中に駆り立てて学習を進めていくのが一番はかどるキモだと思うのです。