和声や対位法を勉強していると禁則というのが出てきます。
和声の課題実施や対位法の定旋律に対する対旋律付け、あるいは作曲する上で使ってはならない和音の連結、進行や構成を指します。
ですが、もちろんそういう禁則というのは現実には学習課程上の、それも古典的様式上でのハナシと考えて良いでしょう。
今回は、この禁則、規則事項に対応して音楽用語独特の名付けが見られること、それに絡ませて私自身でも創作してみた音楽用語を披露したいと思います。
あくまでも私自身で創作した音楽用語というのは、公的には知られていない、認められていないものですので、前もっ手お断りしておくしかありません。
けれど私自身、自画自賛になって申し訳ありませんが、中には
「なかなかよく名付けた」
みたいなケースもあったり、はたまた
「こういう場合、上手い名称の付け方を工夫すれば、もっと取っつきやすいものになるだろう」
と頭をひねったところもあります。
よかったら、何かのご参考にしていただければ幸せです。
禁則事項の音楽用語は親しみやすいけど鬱陶しい?
自由な様式の曲とか、それほどに規則事項に煩わされないスタイルの曲などは、いくらでも無視しようとかまわないわけですね。
ただしそうはいっても、おごそかに「禁則」とあるからには相応の理由がもちろんあるわけです。
ふつう私たちが一般に聞いている、調性音楽。
古典やクラシックそのままではないにせよ、それに似せたり目指したりするような曲のフォームは、そういう見えない規則事項に今もなお、大きく支配を受けているはずなのです。
だったら、現代といえどそんな音楽の上ではそういう禁則をやみくもに破ってしまうような作曲をすると得てしてオカシなものができあがるということは言えるわけです。
それこそ、作る人それぞれの感性の違いも反映されると思いますが、現実には作曲しているとどうしても禁則にをぶつかってしまう局面が現れるものです。
まあ、よくありがちなハードルなのですが、和声とか対位法の実習などをしている内、連続5度とか並達8度とか、そういう禁則事項に出くわすと、やっぱり鬱陶しいというか、親しみやすい言葉ではあるけれど、やっぱり困るわけですね。
その際あえて強引に禁則を破って作り続けるか、または他の代案を考えて巧みにかわしたり、逃げ回ったりして行くことになるのか?
どんな方針をとろうと、このあたりは作曲者のウデの見せ所と言えるかも知れません。
そういうデリケートな禁則なのですが、中にはうま~く使うことで、むしろ音楽上の効果がより素晴らしくなるものがあるのも確かなようです。
苦あれば楽あり?禁則事項の中の許容事項は蜜の味
だから確かにふつうは禁則の部類に入るのだけれども、その効果がなかなか捨てがたいために古い時代から今の今まで使われ続けているものも実はあるのです。
このため、特例で使用が許されているものもあります。
そういうものは、大体が本来的には禁則事項に当たるのに、音楽効果が特別よいために許されている、というものです。
大体私の経験則から言うと、大方は禁則事項に当たる中、特別に音楽効果の良さを買われて許されている様な場合には、確かによい効果もありますし、同時に過去の有名な作曲家たちもよく用いるようなケースが多いようです。
苦あれば楽あり、それだけに限って蜜の味のように甘い、みたいなものでしょうか。
加えて更には、クラシックに限らず他のジャンルにおいて、自由な作風を指向する意図をにないつつ、従来では禁則となっているものが続々自由に使われるようになっています。
そういう近年と違ってきっちりした古典様式の作曲法の中でも「オキテ破り禁則破りもこれならOK」、という場合があるわけで、それが前者なわけですが、それにはいろいろ面白い名前も付いています。
ホルン5度とホルン8度
まずその筆頭として、最初に譜例であげてみた「並達8度」とか「並達5度」。
これは基本的に、2つの声部がともに同じ方向に進行するとき、次に完全8度や完全5度が形成されるものを指します。
(注)この場合、和声学を学んでおられる方だったらご承知の通り、三声以上の楽曲だったら、どちらか一方が内声であれば基本的に許される、ということもあります。
この辺すごくややこしいので割愛します。まずは外声間にできる並達8度5度とお考えください。
これについてホルンの8度、ホルンの5度、という呼び名で知られる特例の並達8度5度があるのです。
これはまず「ホルンの5度」から説明すると、下声を「ミ、ソ、ド」と上行させた際、この三つの音に合わせて上声を「ド、レ、ミ」と順次進行で上行させた際、真ん中の「ソ」と「レ」との間にできる並達5度を指します。
倍音の多い楽器で知られるホルンを用いると、ピストンを使わずにこれらの音を出せ、それゆえにまた、昔からホルンで用います。
このために「ホルンの5度」という名称がついているようです。
同じ理屈で、上声が順次進行しながら真ん中の音程に8度ができるのを「ホルンの8度」と呼ぶわけです。
上行ばかり取り上げましたが、下行の際も同様で、このようなホルンの8度あるいは5度だったら許される、ということになります。
もっとも、学習段階ではこれすら許さないケースもあります。
「並達5度、8度は何でもダメ!」
という、究極の厳格レベルとでも言いましょうか?
たとえば、私が開設しているオンライン講座『和声教室オンザウェブ』の対位法講座で使用している『二声対位法・池内友次郎著』(p.23下[禁則6]など)がそうですね。
対位法のテキストは、和声学テキストよりもモノによって規則禁則の振れ幅がかなり大きい、という印象があります。
このあたり主観的な印象も混じってしまうのですが、その背景の一つには、
・音楽史を見ても対位法は和声よりも歴史が長いこと、
・そしてその分時代によっていろいろな多声曲が生まれてきたことから、その時代ごとの規則事項ができ、逆にその時代が過ぎればそれが廃れてしまう、という事もあったようです。
・今、つまり現代ではごくごく大まかなハナシとして、こういう背景からギリシャ旋法をそのまま使った対位法テキストもありますし、一方で現代の長調短調の調性に基づくテキストも多いです。現在は大体ですが後者が主流みたいですね。
・ただ、対位法の諸規則禁則を「どう許していくか」「どう禁じていくか」は、ハナシを戻すとかなりテキスト同士で異なります。あくまでも私自身の妄想邪推憶測幻想としていいますと、対位法での規則というのは、和声学以上に微妙だと思います。
ここでじゃあ「何が微妙か?」
と言いますと、
禁止にしたり許したからといってそれほど耳で聞いて変だとか正しいとかハッキリしないケースが多い
というのが有るかも知れない、ということです。
対位法の学習の場合、ほぼ間違いなく最初は二声の実習からですが、その二声の響きというのがいきなり4声から始まる和声学と異なり、非常に希薄です。また同時にいろいろな点で曖昧模糊としています。
こういう「なんだかよくわからない」初学の時点をとりわけ取り上げてみると、そこに対する規則付け、禁則作りもものすごく微妙になるのかもしれませんし、また実際に耳にしてみて、二声におけるその二つの音をどう判断していくのか、という基準が著者によって大幅に異なってくる、というのは有るかも知れません。
言い出すときりがないのでこの辺で止めますが、「ホルンの5度」も基本的に5度の響きですので、単品で鳴らすと特有の響きになります。
だからこれをどうとらえるかは、テキストごとに違ってくる。
そういう現実もあってしかり。
とだけ押さえておくとよいと思います。
自分(Hiromichi)流の創作音楽用語
さて、エラく前置きが長くなりました。
そんな次第で、じゃあそういった既存の名称に対して、私(hiromichi)が作り上げた(=でっち上げた)音楽用語って一体何があるのか?
それをちょっと並べてみます。
1⃣パッヘルコード
下のような和声連結。
(最後の4小節目は私が付け加えた終止部分)
今ではすごくよく見かけるものです。
⇒(譜面や写真など、当ブログのコンテンツに対する規制事項はこちらを参照)
その大元は、実はバロック期の作曲家ヨハン・パッヘルベル(1653-1706 ドイツ)が作曲した「パッヘルベルのカノン」という曲から来ています。
この曲は「3つのヴァイオリンと通奏低音のためのカノンとジーグ ニ長調」の第一曲で、これがあまりにも有名になりました。
この和声連結をそのままに使っても美しいので、けっこうお手軽に作曲に応用できます。
なので現在、ちょっとした歌謡曲やポップなどなど、様々な曲の中で使われていたりします。
これを私は「パッヘルベルコード」と命名し、それをもっと呼びやすいように短縮して「パッヘルコード」などと命名しています。
もしかしたら、もっと縮めて「パコ」と言っても良いかとW
2⃣名無しの九(ななしのきゅう)
「それ何ですか?」みたいな名称です。
これは和音の内、要するに「第7音を欠いた『9の和音』」です。
特に、転回形ではなく、基本位置についての和音になります。
読み方の由来は、以下の通りです。。
第七音、つまり「だいななおん」⇒「なな」。
これが“無し”と言う意味で、「なな無し」⇒「ななし」⇒「名無し」。
そして、(和音構成音の)第9音⇒「9」⇒「きゅう(九)」。
これを合体させて「名無しの九」です。
この「名無しの九」を連続させた反復進行(長調)で示すと、次のようなものが考えられます。
各和音の下にある和音記号をご覧になればおわかりと思いますが、英数字の大文字による三和音に、それぞれ「+9」と、第9音が付加する表示としてみました。
ひとまずこれを「名無しの九」の和音記号としておきます。
この和音は、和声学で言う「限定進行音」の第七、第九音を持つ『9の和音』とも言えるかもしれません。
けれど和声学上、第9音、そして第7音は「限定進行音」と呼ばれていて、特殊な構成音です。
というのは、これら「限定進行音」というものは基本的に省略不可能です。
このため、結局第7音を欠いているこの和音は、少なくとも古典の和声学上では正式な和音とは認めづらい部分があります。
よって、和声学テキストなどでも、
“第九音を正式な和音構成音とは認めず、転位音(和音外音)として考えていく。その結果、これを従来の三和音と同じものとする”
ように分析規定を設けているようです。
けれど、この「名無しの九」というのはけっこうキレイに響く和音で、やっぱり様々に用いられていると言えます。
この「名無しの九」、単独の(独立した)和音としては性格が弱く、たとえば第九音はもともと和声学(音友和声)でいう「転位音」ととらえる方が合理的とも言えます。
だとすれば、と言うことで下にこの「名無しの九」を持つ各和音を、その当該和音中で隣接する(三和音の)和音構成音に解決させる形でも十分に使えますね。
そういう、各和音の中で転位音と見立てて2度下方へ解決を連続させて使った和声(反復進行)を作ってみました。
ごらんのように、大体元々が限定進行音、そして転位音と見立てられやすいということで、第九音は次に2度下行するのが普通と言えるでしょう。
また、これの変形として、反復進行する途中の要素たる和音について、隣接調からの借用和音(属和音)としてつなげても十分行けます。次のようになります。
さらにここからもう少し話を広げてみますと、
こうしたある三和音の基本形、つまり転回形でない形における第九音の下方解決、というものが、その和音の第一転回形における第七音の下方解決とくらべて、けっこう音のイメージが似通っている
ということも言えるのではないか、と私個人は考えます。
そこで、これと同様な反復進行を、今度は三和音の第一転回形を母体にして、その上で「第七音⇒根音への解決」を反復進行にまとめてみました。
次のようになります。
ご覧の通り、各和音の冒頭、転位音となる第七音があることで、それぞれ副七和音ができていてきれいに響きます。
(注:上の譜面中、各和音記号に転回記号(「一転を示す[1]」)を付け忘れていました。下の動画中も同様です。どうも失礼しました。後ほど修正します)
最後に、これまで表示してきた4つの譜面について、連続して音を出してみた動画を下にご覧に入れます。
というわけで、今回は「パッヘルコード」「名無しの九」という、二つの創作音楽用語をご紹介してみました。
また何か面白そうな創作用語のネタがあったらお伝えしたいと思います。
最後までご覧頂き有り難うございました。
(旧サイト「hiromichiの部屋」より移転&再構築)