平均率という言葉があります。
ウィキでは『1オクターヴなどの音程を均等な周波数比で分割した音律』とあります。
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%B3%E5%9D%87%E5%BE%8B)
でも平均律といえばやっぱりバッハですね。
「平均律」というワード、イコールでバッハのあの鍵盤音楽の傑作とイメージを結びつける方は多いかと思います。
彼は平均率クラヴィーア曲集という一連のキーボードの曲集を生涯2組作ったことは、音楽に詳しい方なら誰でもご存じだと思います。
これら2つの曲集のうち、私(hiromichi)はどっちが好きで、それはどんな理由からか、と言うのが今回のテーマとなります。
あくまでも私はアマチュアであり、音楽に対する造詣もその域を出ることはありませんので、単に自分の好みで判断しているに過ぎないコメントの連続であること。取るに足らないハナシなことを付け加えておきたいと思います。
平均率という曲集に初めて触れたのは高校時代でした。グレングールドのレコードで第1巻を聞いたのが最初です。
その後大学入学時の前後にリヒテルの演奏によるテープで第2巻を初めて聞きました。
グールドは結構特徴的なスタイルで先鋭的なピアニストという印象と言うような内容の文献を読んだ記憶を持っていましたが、それとは対照的にリヒテルはすごく正攻法的な印象を持ちます。
(耳が経験不足なのであくまでも書籍などで得た知識を自分の独断で総評した所見です。これだけでも充分偏りがあると思いますがどうかご容赦を)
そういう両者の演奏の違いもあるかと思いますが、結論から言ってしまうと私は今日に至るまでほとんどもっぱら第2巻を愛聴していました。
私が2巻を好むのはなぜかと言われたら、やっぱり聞いていて楽しいから、と答えるしかないですね。私の中で1巻と2巻とでは嗜好とともに聞く頻度がかなりの差異を持っています。
なぜそんな風に差異を持つかというと、やはりこの2つの曲集の間には確かにある種の違いがあるから、と言えそうです。
一つには2つの曲集の音楽的な内容の作曲者のバッハが1巻を完成したのは確か1722年、二巻は1744年と記憶していますが、この20年あまりで彼の作風や書法がさらなる熟達を遂げたと思います。
それが実際、作曲の書法にハッキリと打ち出されている。
それが1巻と2巻の絶対的な相違点でしょうか。
私は専門家ではないので一概にはそれを決定できませんが、細かなところで例示を持ち出すと、2つの曲集のうち、それぞれ第1曲の「前奏曲(ハ長調)」を比較すればよいかも知れません。
第1巻はご存じの通り、「グノーのアヴェマリア」の伴奏として知られるものですが、始めから終わりまでほとんど一定の音形を連続しています。
その音形を通じて曲全体には確かに洗練された和声進行、そして潜在的な和音連結がはめ込まれているのは、私などが言うまでもないことですが、それを強引にこじつけて、独断偏見盛り込んで考えれば、「伴奏をそのままいっぱしの曲に仕立て上げたもの」がコレ。
私はそう考えてしまっています。
しかしながら対して第2巻の第1曲、ハ長調の前奏曲は和声や音形、調など音楽を構成する要素が絶えず複雑に変化して流れ、堂々とした4声体の対位法音楽です。
この前奏曲は元々彼が若い頃作曲したものを膨らまして再構成したと言う下りをもつことをある書籍から知りましたが、この2巻を完成した時点の彼の書法は私のようなアマチュアが見ても、明らかに若い頃のレベルを凌駕している、それが分かってしまうようです。
もちろん2巻にもこのような同じ音形を連ねて和音の変遷のみを追求するものもありますが(嬰ハ長調の前奏曲など)、そこに与えられた音形はもちろん、曲想や響きも1巻に比較してかなり複雑化していると思います。
それからもう一つは音楽の長さがありますね。
もちろん2巻の方が1巻よりも個々の曲が長くなり、ある一定のユッタリ感があると思います。
1巻はどちらかというと求道者的な感じを受け、音符の構成は2巻ほど複雑ではないものの、逆に1音1音が恐ろしく先鋭で深く切り込んだ印象を受けます。
そしてそれぞれの曲も、2巻よりも短いものがほとんどです。
もちろんそれでも、確かに美しい印象はありますし感動的な曲もあったりします。
ですが2巻と比べて、一曲一曲がすぐ終わってしまい、ちょっとものたらなさを受けるというのが私の印象です。
これは前奏曲だけでなく、フーガでも同じと感じます。
対して2巻は何というか、語弊を覚悟で言いますと結構遊び心が出てきているような感じを持ちます。
リズムの多様さ、変幻自在さも2巻を凌ぐと思いますし、曲を聴き続ける際はこちらも「楽しんで聞く準備(?)」を持てます。
そして、各「前奏曲とフーガ」のひと組を順繰りに聞くにつれ、前の曲からの曲想や音楽の移り変わりをもまた楽しみながら味わえる余裕が持てる感じがします。
これに対して1巻は、ものすごく煮詰めて煮詰めて、煮詰まっていてそういうゆったり、くつろぎ、楽しみみたいな余裕が持ちづらい。
あくまでも私自身の個人的な感想ですが、ですので2巻と1巻の曲集を聞き比べた時、だら~っとずっと聞き続けていられる、そしてどっぷりと音楽に浸かれるのは紛れもなく2巻になります。
彼がもしももう少し長生きしていて、たとえば「平均率第3巻」を完成させたらどのようなものになったか興味深いですね。
1巻から2巻への変遷によってある方向性が示されているのでその延長上のものを想像できると思いますが、それこそ四重フーガなどを入れたかも知れません。
そんなわけで以上は全て私の独断でした。お目汚しお粗末様です。
(旧サイト「hiromichiの部屋」より移植・修正)