「何ですかそれ?」みたいな名称です。
「名無しの九(ななしのきゅう)」とは?
一見音楽に全然関係なさそうなワードですが、さにあらず、です!
ということで、この名称の由来を和声のハナシと絡めてお伝えしていきたいと思います。
「名無しの九(ななしのきゅう)」は和音の一つの形体を指したもの
これは和音の内、要するに「第7音を欠いた『9の和音』」です。
特に、転回形ではなく、基本位置についての和音になります。
(※和声学上、9の和音で転回形は基本的に用いない。Ⅴ9の和音についてもないわけではないが、内声に置かれた根音(音階上ⅴ音)が先行和音および後続和音のそれらと連結保留されるなどの特殊な用法を除き、またⅤ9が「根音省略」でない限り、それほどによく用いることはない)
読み方の由来は、以下の通りです。。
第七音、つまり「だいななおん」⇒「なな」。
これが“無し”と言う意味で、「なな無し」⇒「ななし」⇒「名無し」。
そして、(和音構成音の)第9音⇒「9」⇒「きゅう(九)」。
これを合体させて「名無しの九」です。
この「名無しの九」を連続させた反復進行(長調)で示すと、次のようなものが考えられます。

各和音の下にある和音記号をご覧になればおわかりと思いますが、英数字の大文字による三和音に、それぞれ「+9」と、第9音が付加する表示としてみました。
ひとまずこれを「名無しの九」の和音記号としておきます。
この和音は、和声学で言う「限定進行音」の第七、第九音を持つ『9の和音』とも言えるかもしれません。
けれど和声学上、第9音、そして第7音は「限定進行音」と呼ばれていて、特殊な構成音です。
というのは、これら「限定進行音」というものは基本的に省略不可能です。
このため、結局もともと「省略不可能な限定進行音である」第7音を欠いているこの和音、“名無しの九”は、少なくとも古典の和声学上では正式な和音とは認めづらいという問題点があります。
よって、和声学テキストなどでも、
“第九音を正式な和音構成音とは認めず、転位音(和音外音)として考えていく。その結果、これを従来の三和音と同じものとする”
ように分析規定を設けているようです。
理論的には単独和音としてはアウト?響きは魅力一杯!
この“名無しの九”を今回なぜ持ち出してきたのか?
といえば、ひとえにその和音の響きのよさが理由です。
聞いてみるとおわかりの通り、確かに不協和音の響きを伴います。
長短9どの響きを常時有している和音なのでこれは確かに当然なのですが、だからといって音楽的にはそうそう悪い響きに終始するような性質の和音でもない、そういう印象を与えているのではないでしょうか。
これは「7の和音」にも同じ事が言えます。7の和音も長短7度を(あるいは転回形なら長短2度をも)響きに含むので時にはキツい響きになることもあります。
また、たとえ三和音であってもその第2転回形であればバスと根音の間に必ず4度を含むことになり、この際にはその4度の音程が不協和音となリます。
けれど、この「名無しの九」というのはけっこうキレイに響く和音で、第9音を非和声音としながら、やっぱり現実で様々に用いられていると言えます。
ということで、こういう古典的な理論をざっと俯瞰すれば、単に“名無しの九”だからといって必ずしも「不協和」というカテゴリーでは三和音や七の和音から飛び抜けて悪い響きを持つというわけでもなさそうですし、実際にクラシックそしてそれ以外の、ポップ音楽などには巧妙にこの“名無しの九”が用いられている曲もあったりするようです。
個人的には沖縄で活躍していたご当地バンド「りんけんバンド」のリーダー、照屋林賢氏が作曲したナンバーの中で、そういうフレーズをよく思い出します。
「名無しの九」の連続的用法は?反復進行のテストケース
というわけで、この「名無しの九」、単独の(独立した)和音としては性格が弱く、たとえば第九音はもともと和声学(音友和声(=『和声 理論と実習』音友社))でいう「転位音」ととらえる方が合理的とも言えます。
つまり一個の独立した和音としては、理論上やはりアウトになるワケです。
ただ、その表現上で綺麗に響くのだとすれば、下の譜例のようにこの「名無しの九」を持つ各音度の和音をⅠーⅣーⅦーⅢーⅥーⅡーⅤーⅠ、と反復進行(「和声 理論と実習 p.229」)でつなぎ合わせてみるのが一つのテストケースになるだろうと思います。
その当該和音中で隣接する(三和音の)和音構成音(根音)に解決させる形でも十分に使えますね。
下の譜例ではそういう、各和音の中で転位音と見立てて2度下方へ解決を連続させて使った和声(反復進行)です。

ごらんのように、大体元々が限定進行音、そして転位音と見立てられやすいということで、第九音は次に2度下行するのが普通と言えるでしょう。
また、これの変形として、反復進行する途中の要素たる和音について、隣接調からの借用和音(属和音)としてつなげても十分行けます。次のようになります。

または先行音からの「打ち直しの掛留音」ともできると思います。
さらにここからもう少し話を広げてみますと、
こうしたある三和音の基本形、つまり転回形でない形における第九音の下方解決、というものが、その和音の第一転回形における第七音の下方解決とくらべて、けっこう音のイメージが似通っている
ということも言えるのではないか、と私個人は考えます。
そこで、これと同様な反復進行を、今度は三和音の第一転回形を母体にして、その上で「第七音⇒根音への解決」を反復進行にまとめてみました。つまり「名無しの九」の和音を7の和音に変えてみた例です。
次のようになります。

「| |」は偶成和音記号です。つまりこの時点でそれぞれ副七和音が生成されています。
最後に、これまで表示してきた4つの譜面について、連続して音を出してみた動画を下にご覧に入れます。
なお動画中の譜面上にて、一番上段はそれぞれの和音の第9音(ソプラノ)が次の和音に移る時点で2度の下行解決をしています。
和音記号の表記もちょっと独特になりましたが、これは要するに音友和声で言う「全長転位音(「和声 理論と実習Ⅲ p.193」)」と捉えることもできるでしょう。
というわけで、今回は「パッヘルコード」「名無しの九」という、二つの創作音楽用語をご紹介してみました。
また何か面白そうな創作用語のネタがあったらお伝えしたいと思います。
最後までご覧頂き有り難うございました。




